皆さんは子供の頃に「夜に爪を切ったらいけない」とか「乳歯が抜けたら上の歯は床下へ、下の歯は屋根の上に投げる」とか聞いたことはないでしょうか?
私の手元に昭和60年に上対馬町教育委員会が発行した「上對馬のものごつ いいつたえ」という本があります。その冒頭では昭和20年代頃から長く育まれてきた行事や慣習がすたれてきたとあります。読んでみるとお正月から大晦日までの各種行事や言いつたえ、天気のこと、迷信、ことわざまで多岐にわたって書かれていました。そこで今回は、近年では忘れ去られて人々が口にすることが少なくなった迷信や言いつたえについて私が覚えていることを中心にご紹介します。
『ものもらいが出来たら、井戸に小豆3粒を投げ入れ、振り向かずに帰る』
これは40年以上前に祖母が、私にものもらいが出来たときに小豆をものもらいに当て、井戸に投げ入れたあと後ろを振り向かずに帰った記憶があります。小豆をものもらいに当てるとき何かおまじないの言葉を言っていたように思いますが、定かではありません。
『お盆に泳ぐと河童が尻を抜く』
海水浴場の近くで育った私には、夏休みに海で泳ぐことがライフワークとなっていました。しかし父親や祖母から「お盆に海で泳いだら仏様が、あの世に連れて帰る」とお盆に泳ぐことは固く禁じられていました。
『西が曇れば雨になる』 『小鳥が鳴き出すと天気になる』 『月に雨傘、日に日傘』
現在では、気象衛星の画像や天気図、予報など予測できる天気も昔は自然現象から予測していたようです。ちなみに『月に雨傘、日に日傘』は、月の周りに光臨が出たら雨になり、太陽の周りに出たら晴れるという意味です。覚えておくといいですね。
『山に入るときアブラウンケンソワカと3回唱えると虫にかまれぬ』
この言葉は、幼いころに聞いた覚えがあります。どんな意味だろうと不思議に思い、ネットで調べてみると仏教の中でも密教系の真言のひとつのようです。アビラウンケンソワカが正しいようで、大日如来の内面の悟りを表し、あらゆることを達成するための呪文とのこと。虫よけのおまじないではなかったんですね。
『沖で水死人を拾えば漁がある』
このことわざは対馬はもちろん、他の地域の複数の漁師さんから聞いたことがあることから広い範囲で普及しているのではないでしょうか?厳しい自然を相手に仕事をしている漁師さんたちは信仰深い人が多く、「沖で土左衛門(水死体)を見つけたら、船に引き上げて連れて帰り、弔えば大漁に恵まれる」と信じられています。
『沖であやかしに会って、あかとりを貸せと言われたら底を抜いて貸さぬと海水を舟に汲み込まれて沈没させられる』
これも子供の頃によく聞いた怪談話で「沖で海坊主が出てきて、あかくみ(舟底に溜まる海水を汲み出す小型の桶)を貸せと言われたら、底を抜いて貸せば、海坊主がいくら海水を舟に入れて沈めようとしても出来ないので助かる」というもの。
ここに挙げた迷信以外にも、皆さんも多くの迷信や言いつたえをご存知かと思います。たまには童心にかえって思い出してみてはいかがでしょうか?
対馬特派員 鍵本泰志
参考文献
「上對馬のものごつ いいつたえ」
昭和60年3月20日発行
発行者 上対馬町教育委員会