厳原港のシンボル 立亀岩(立神岩)

立亀岩01

 対馬に生れた人々にとって、進学や就職で故郷を離れるときに目にするのは出航する船から眺める港の風景でした。厳原港の東岸には立亀岩(たてがみいわ)と呼ばれる巨大な岩がそそり立っています。島人はこの岩を見ながら、不安や希望を胸に都会へ旅立ち、お盆や正月に里帰りした時は、この岩を見て故郷へ帰ってきたと懐かしい気持ちと安堵感が湧き上がったものでした。

立亀岩02

 祖母に聞いた話では、フェリーや高速船、韓国航路の船が入出港している現在と違い、昭和初期までこの立亀岩の下は浪打ち寄せる海岸で、恋に破れた乙女が身投げするような場所だったとか。

立亀岩という名は亀が立っているような形からつけられたようですが、これは後世つけられたもので、本来は立神岩(たてがみいわ)といい、神が降り立つ場所だったようで、航海安全の神、住吉神社が祀られています。

立亀岩03

昔は船が出港する際は大勢の見送りの人とデッキで旅立つ人が色とりどりの紙テープで繋がり、船が岸壁を離れるとテープが切れ哀愁を誘ったものでした。飛行機が普及している現在では、見送りもあっけないように感じます。都会へ旅立つ人が最後に目にするのは、上空から見下ろす対馬のリアス式海岸でしょうか?

対馬特派員 鍵本泰志

海上航海のパワーストーン!寝釈迦鼻と東風石

対馬 厳原港 寝釈迦鼻 寝釈迦岩 野良崎

 対馬でフェリーや高速艇が入港する港は比田勝港(ひたかつこう)と厳原港(いづはらこう)の二つですが、ここ厳原港の入り口「野良崎」に「寝釈迦鼻.」という面白い形の岩があります。一見なんの変哲もない岬ですが、よく見るとお釈迦様が横になっている涅槃像の形をしています。

対馬 寝釈迦鼻 寝釈迦岩 野良崎

 江戸時代、対馬藩士の平山東山(棐)が書いた対馬の地誌「津島紀事」に「耶良崎(野良崎)の磯を寝釈迦という形。涅槃の像に似たれば也」とあり、その存在は古くから知られているようです。また、「津島紀事」には「その右手に二つの霊石ありて、陽石(おいし 起上り小法師の形也)、陰石(めいし)と云い、巫祝(ふしゅく・・・神事をつかさどる者)これを祭り石を撫で、風を祈れば東風吹きよりて東風石(こちいし)と云う」とあります。

 帆を張り風を受けて進む帆走や櫓走が主だった時代、東風石には良い風を、寝釈迦鼻には航海の安全を祈ってきた対馬の人々。その思いを忘れないように後世へ伝えていきたいですね。

対馬特派員 鍵本泰志

名  称  野良崎の寝釈迦鼻(ねしゃかばな)

場  所  厳原港ターミナルから南東へ約900m。新桟橋の防波堤からと、対岸の志賀の鼻公園から見れます。

参考文献 「津島紀事」平山棐 著 国立国会図書館近代デジタルライブラリー